うしろの人

中村正義(1924-1977) 1977(昭和52)年 紙本着彩 162.1×130.3 第11回現代日本美術展出品 平成5年度購入

うしろの人

うしろの人

解説

この作品は波乱に満ちた52歳の生涯を閉じようとする中村正義の最晩年の作にあたります。すでに蛍光色や原色でエネルギッシュな造形を試みた時期は過ぎ去り、闘病生活や迫りくる死を映し出したかのような陰鬱な色彩で恐怖や不安、焦燥など精神の暗部がむきだしにさらされています。繰り返し描き加えられた画面からは最後までこの作品に固執した作者の強い執念が感じとれるとともに、幾層も重ねた顔料が研ぎ出されることによって重厚感ある画肌と工芸的な装飾性が付加されています。その主題は中村正義の絵画世界に頻繁に現れる舞妓とそのうしろに何者かが立つ構図を踏襲したものですが、これまでのコミカルな男女の対比図とは異なり、人間の二面性(陰と陽)とも、しのびよる死の影とも、多様な解釈が可能でしょう。その白く揺らいだ女性の顔容と視点の定まらない瞳は、正義が精神の深淵から呼び寄せた何者かの姿であり、画面には凄絶なまでの迫力が溢れて今なお見るものを震撼させます。

この記事は2014年03月05日に更新されました。