浄界

高畑郁子 (たかはたいくこ) 1929- 1978(昭和53)年 紙本着彩 181.8×227.3 第5回創画展出品 昭和55年度購入

浄界

浄界

解説

高畑郁子の後半生は信仰と生活が混然と解けあうインドの原風景によって、その方向性が大きく決定づけられたといえるでしょう。朱を基調とした以後の作品は一見すると宗教画のようですが、あくまでも主体は人と神々との関わり、風土に根ざした信仰そのものの姿でした。昭和53年の第5回創画展に出品されたこの作品は、対となる《聖界》とともに創画会賞を受賞しました。赤銅色の肌、鋭い眼光を放つ人々の背後には彼らの生活に根ざしたガーネイシャやシバなどヒンドゥーの神々や仏たちがゆらめき重なりあうかのように顕現し、随所に散華のように経文が散りばめられ、画面にかすかな律動を生み出しています。混沌とした神仏の世界は、大地の色を思わせる暗褐色地に鮮やかな朱の線で丹念に描きこまれていますが、明暗が反転したその荘厳世界は我が国に請来した金銀泥曼陀羅や装飾経などを彷彿させます。それは独特な視覚効果を生み出すとともに、聖と俗を隔てるという役割を果たしているといえるでしょう。以後、高畑はインドにとどまらず、南米やチベットの神仏、日本の信仰世界などを貪欲にその絵画世界に取り込んでゆきました。

この記事は 2014年02月11日に更新されました。

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